「彼のことなんて忘れてしまいなよ」 自分でもわかるくらい、いやらしく笑って彼女に伝えた。彼女は僕の腕の中で放心状態になっている。唇は真っ青で、少し震えている。何が起こったかわからない、そう言いたげに僕を見上げる。目にはうっすら涙が溜まっている。、に愛を囁くのも、の名前を呼ぶのも、僕一人で十分だ。の耳に入る声は僕一人の声で十分だ。そう呟いて彼女を強く抱きしめる。彼女の身体は震えていた。 ぴくり、視界の端で急所を的確に狙ってもう動けないはずの男が動く。まだ、動けるんだ。言いながら立ち上がろうとすると力なく僕の腕を引いて「やめて」と必死に訴える彼女。 嗚呼何をそんなに怯えているの?それににそんな心配されるのも僕一人で十分。僕はの手を絡めとって、手の甲にキスをして男の方へ向かう。 「君が悪いんだよ」そう言って頭に思いっきり蹴りを入れてトンファーで首を殴る。男の首がありえない方向に曲る。もう呼吸も何も聞こえない。 の方へ歩み寄ると僕が近付いていくたびに身体を揺らして、何か恐ろしいものを見るような目で僕を見る。 僕が欲しいのはそんな目じゃない、けれどもうきっと彼女の目は以前のような優しい目には戻ってくれないだろう。何も言わずに抱きしめる。ワイシャツに水滴が落ちた。 愛し子よ |