今日も図書室に来た。場所は決まっている。文庫本が並ぶ方の本棚側の席の前から4番目、さらに左端。そこが一番ストーブに近い場所らしい。 寒さを気にするなら応接室に来ればいい、と言うとここで読むからいいの!と即返されてしまった。家に借りて帰れば、といわないのは彼女と居たいから。 僕は寒さのために肩をすぼめている彼女の首に自分のマフラーをかけた。彼女は上目遣いで僕を見て、え?と阿呆みたいな声を出した。 「何、」 「いいの?寒くないの?」 「僕は別に」 「そうなんだ」 ありがとう、と一言言うと、彼女は立ち上がって席に荷物を置いてさっさと文庫本の並ぶ本棚へいってしまった。 僕も荷物をおいて、その後ろをついていく。彼女はお目当てのものがみつかったのか2冊ほど手にもってさっさと席へと帰っていった。 僕はといえば、特にこれと言って面白そうなものもなかったので、昨日彼女が読んでいた本を持っていった。 そこからは終始無言。彼女は自分の本を読むのに夢中になって、僕は別にそうでもないけど、とりあえず読むだけ読む。 僕が時々あくびをかみ殺すような声を出すと、彼女はぱっと目を向ける。だけどそれが僕のあくびをかみ殺す声だとわかるとすぐに本に目を向けなおしてしまう。 だからこの時間はあまり好きではない。彼女を本にとられた気がして。 最終下校のチャイムと、教職員の放送が鳴ると彼女は本を直しに本棚へと向かう。僕は熱さの名残を残したストーブに手をかざしながら窓の外を見る。 冬となると、もう外は真っ暗である。彼女はそんなこともお構いなしに、本を直し終わったあとも次はどの本を読むかを吟味していた。 帰るよ、と声をかけると頷いて僕の後を付いてくる。図書室を出ると何時間かぶりの彼女の声が聞こえた。 「あの本、面白かった」 「まぁまぁだね」 「そっか」 会話が途切れて、廊下には僕と彼女が歩く音と呼吸をする音だけが響く。呼吸音なんかちっぽけなもんだから、歩く音に消されてほとんど聞こえないけど。 そんなとき不意に彼女が僕の学ランの裾を掴んで止まった。僕は少しだけぐらつく。 「どうしたの」 「恭弥くん、私と図書室行って楽しい?」 「なんで」 「いつもつまらなさそうだから」 率直にそう答えて、少し間が開く。5秒くらいして、彼女が首を振ってううん、なんでもない。ごめんね、帰ろう。と呟いて歩きだす。 今度は僕が彼女の腕を引っ張って彼女を僕の腕の中に収める。今度は歩く音よりも僕の呼吸音と彼女の呼吸音だけが大きく聞こえた。 「別につまらなくない」 「ただが本ばかり見ているからいやなだけだ」 二言を続けて言うと彼女は下を向いたり目を泳がせたり耳を赤くさせたり、とにかく照れていた。僕自身も恥ずかしいのでさっさと彼女の腕を引いて歩きだす。 彼女との歩幅が会わないみたいで時々彼女が躓きそうになったりするのが視界に入ってきたけど、それより何より、僕の顔がきっと赤いであろうことを隠したいのでとにかく歩いて歩いてあれほど図書室では嫌だった無言も耐え切って下足室までとにかく歩いた。 下足室につくと彼女は普段歩かない歩幅や速度で歩いたせいか、はぁはぁと息を少し切らしていた。それを見るとなんだか申し訳ない気分になったが、おかげで僕の顔の赤みはなんとか消えた。 「あ、あのね、恭弥くん、」 「何」 「じゃあなんで恭弥くん、はいっつ、も私についてきてくれる、の?」 そりゃあ、 「君の本を読む姿を 見るのが好きだから」 |