「誕生花ってあるじゃないですか」 花畑の中心あたりに居る彼女が俺に話しかけた。前まで花粉が、虫が、と難癖つけて避けていた花畑に今では平然と立っている彼女を見て、本当よくわからないなぁと思ったのは秘密。 小川には魚やらあめんぼが居るからいやだ、山には蛭や蜂が居るからいやだ、家には一人だからいやだ。どこもかしこにも理由をつけて嫌がる彼女を連れて回るのは大変なことだ。 でも連れ回して行くうちに意見がころころ変わる彼女が愛しいと思うのも事実で。(本当は死者を裁く者の頂点に居る俺が一介の死者にすぎない彼女にこんな気持ちを持つのはいけないのだろうけど。) しばらく返事が無かったのを怪訝に思ったのか、彼女は閻魔様?とさっきの言葉のときより若干大きめの声で俺を呼んだ。 「誕生花、ね。うん。それがどうかした?」 「私の誕生花、チューリップなんですよ。」 「へぇ、かわいらしいじゃん」 これは率直な答え。チューリップといえばかわいらしい。君みたいで、なんてとてもくさくて言えないから言わないけど。彼女はというと、かわいいねぇ…とかなり不服そうに呟いた。 眉間には皺が寄っていて、どれだけ嫌かが伺える。俺には何が不満かわからない。チューリップはかわいい。結構一般的で、ポピュラーで。 下界でもわざわざ春になる前に球根を植えて春にはチューリップ畑を作ってるところだってある。それほど人気で、一般的で、あぁだからいやなのかな? 「人気で一般的なところがいやなの?」 「え?」 「嫌そうな顔してたから」 「ああ、」 違います違います、と顔の前で手を振って首も横に振って否定する彼女が言うには、チューリップという花自体が嫌いらしい。咲きかけのころはなんとなくかわいらしいと思うらしいが、 立派に咲いて、開ききったチューリップは怖くて嫌いらしい。確かにちょっと虫食い花とか連想させるところはあるかもな、と記憶の片隅にある開ききったチューリップを思い出しながら彼女の意見に肯定する。 でもそれだけの理由?と聞くと、彼女はまた違います、と答える。じゃあ他に何がいやなの?と聞くと人に媚びてるじゃないですか。と答える。 球根を人の手によって植えられて、毎日手入れやら世話やらをされて育つチューリップ。捉えようによっては確かに媚びているように見える。何とも返しようがなく、あー…と声を漏らすとそれならタンポポとかハルジオンとか、 そこら辺に人の手を借りずとも自生して仲間を増やしていく花の方が良くないですか?と彼女は聞いてきた。 「でも踏まれるよ?」 「踏まれてもいいです。だってたまに自生してる花に助けられる人だっているじゃないですか」 私はそうでしたよ、と笑顔で答える彼女。一理あるような無いような、よくわからないから苦笑いを少しだけ顔に貼り付けておいた。 |