就職してから時間がなかった。多分就職する前だから、5ヶ月くらい前につけたエクステはもう束が見えるようになっていて格好悪いし、 ぼさぼさだからまるでボンヅラでも被っているように見える。変わったことといえばメイクもおしゃれも手を抜き出して、 好きな人に通算5敗したくらい。今日も朝から時間がないので、ボンヅラみたいな髪の毛を後ろで1つくくりにして成人女性として 最低限のメイクをしていつもと同じスーツを着てカバンを手に持ってご飯は10秒メシ。ぱぱっと用意を済ませてさっさと家を出て行く
鍵閉めた、部屋の電気も消したし、カーテンも閉めた。大丈夫だな、と必要最低限の確認をして階段を駆け下りる。





階段を下りたところでその、5敗した彼に会う。今日も不細工ですね うるさい。 そんなだから彼氏が出来ないんです。 じゃああんたがなってよ。 さんは僕のタイプではないです。 知ってるよ。 なのに5回も告白するなんてばかげてますね。 ほっといて。 そんな会話をしながら二人で通勤する。大学で一目ぼれして、なぜか就職先まで一緒で、マンションも一緒。期待せずに居られるだろうか。 (彼曰く偶然なのでそれは期待するほうがばかげてるらしいが)





会社は歩いて10分くらいのところなので大体いつもギリギリにつく。 タイムカードを押してさっさと仕事を始める。机に溜まった書類を件ごとに分けながらパソコンを立ち上げる。彼は悠々と出勤途中に買ったホットコーヒーを飲みながら松尾部長をいじめてた。 後ろから松尾部長のマーフィーくんがあああとか言う声が聞こえるけど気にしたら負けだ。振り向かずに立ち上がったパソコン相手ににらめっこをする。 一件終わったらまた一件、昼ごはんを友人たちと食べに行って、昼休みが終わる5分前には自分のデスクについてまた一件仕事をこなしていく。 途中で小野くんが持ってきてくれたお菓子を食べながら一息ついて、でも小野くんが厩戸専務がまた逃げたとかなんとかで呼び出されて(彼も苦労人だ)、そこからまた仕事を開始。終わる頃にはいつももう真夜中。 友人が声をかけてくれさえすれば家に持って帰るという選択肢もできるのだが、友人曰く、声がかけにくいくらい没頭しているらしく、結局いつも真夜中に一人でとぼとぼ帰る羽目になる。 今日も外を見るとオフィス街の向こう側にあるラブホ街だけなんだか私のむなしさを誇張するかのようにきらきら光っていて、はぁ、とため息を吐いて帰る用意をしてドアに手をかける と。






「シカトですか、いい度胸してますね」






後ろから聞きなれた声が聞こえて振り向くとそこには私に5勝している彼が。河合くん、と言うと他に誰が居ますか。とチョップ。 ただでさえ眠たさでがんがんしている頭にチョップは相当効いてさらにがんがんと頭が鳴り響く。痛い。痛いよというと痛くしてますからとしれっとした答えが帰ってきた。このやろう。 そう思いながら私の口から出てきたのは悪態でもなんでもなく、ただの嗚咽だった。ぐずぐずと鼻を鳴らしながら泣いている姿は本当に不細工だと思う。 でも涙は止まるところを知らなくて、どうしてこんなに自分がないているのかなんてわかってるけどそんなことを言ったってただ彼に八つ当たりしているにしか過ぎないのだ。 悔しく思えてくるとだんだん出てくる涙の量も多くなる。彼は私を見てため息を吐いて、私の目の前まで来て顎を掴んで無理やり顔を上げさせる。






「ぶっさいくな顔ですね。」
「う、るさ、」
「僕はね、貴女のその意味の無いエクステとか言う偽者の髪の毛も化粧をしても栄えない顔もちびな背も嫌いです」
「でもね、貴女が頑張ってる姿は好きです。必死に僕を追いかけている姿も嫌いではない。」






「まぁせめてさっさと僕に見合う女になることですね。」