時が来た。ずっとずっと来なくてもいいと願い続けてたけれど、今の時代に時間を止めるなんて技術はなくて、あったとしてもきっとここでは通用しない。 通用しちゃいけないんだ。私は目の前で情けなくも泣きそうになっている閻魔大王の頬に手を滑らせて、せめて私も笑っていなきゃという何かの義務を感じて、できるだけ本当に今できるだけの満面の笑みを作った。 何か言葉を、と思ったけれど私の服の袖を掴んで震えている閻魔大王はいつもよりも全然弱弱しく見えてどんな言葉をかけても崩れ落ちてしまいそうで、こういうときは言葉はいらないのかもねとこっそり思った。 「ちゃん」 「何ですか、大王」 「今ね、すっごいぎゅーって。胸が痛いんだ」 「はい」 「何なのかなぁ。俺、ちゃんがいなくなるってわかってから毎日こんな調子なんだ。」 病気なのかなぁといつも通りに笑おうとする大王は本当に弱々しかった。私がそうさせている、わかっているが私にはどうしようもない。 手が無意識に大王の頭を撫でる。本当はこんなことしちゃいけないんだろうけど、そうしなきゃいけない気がしてならなかった。 それは心で、 「あとね、毎日目から水が出てくるんだ。おかしいだろ?今までなんともなかったのに」 「きっと病気なんだ、俺。ちゃん病だ。俺、ちゃんと一緒に死んじゃうのかなぁ」 違う、ちゃんは還るんだよね、俺だけだ、死ぬのは。どっちにしても一人になるんだ、俺。ぽつりぽつりと零れ落ちた言葉が私の耳に入ってくる。 大王は死にませんよ、大王は生きるんです。それで、もっともっと色んなことを知るんです。私はそう言った。 大王はそれっきり黙って私の服の袖を今さっきよりもっと強く握ることしかしなかった。 「大王、私は還ります。だから、どうか私のことは忘れてください」 「やだよ、忘れられない。おかしな話だけど、俺は君を愛しているみたいなんだ。こんな気持ち、もうずっと、何千年もしてなかったから忘れてたけど、好きなんだ。愛してるんだ。 そんな子を忘れられるわけがない」 「だめです、愛さないでください、私ごときに心をおかないでください」 私が首を振るのを同じくらいに大王も首を振ってだめだめ、無理だよねぇちゃん、だめだよ俺、ちゃんがいないと生きていけない。と泣きながら何度も繰り返した。 大王の頭をもう一度撫でて、お願いですから、と言ったところで意識が薄れていく。頭の中が騒がしい。何か言わなきゃ、そう思ったけれどもう意識を保つのに限界がきて、今までの記憶と意識を全部手放した。 最後に私の頭に落ちてきた雫は、なんだったのだろう。 それは涙で、 |